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文部科学省の「GIGA スクール構想」で活用する「児童生徒向けの1人1台端末」についての考察

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(このページは2021年4月6日に作成し、5月9日に加筆修正しました。)

私は昭和60年に兵庫県の公立高校に教諭として採用されてから、成績処理など校務における情報処理に従事し、学校に学習用コンピュータやネットワークが導入されるようになってからは管理や運用を職務として行い、教科「情報」が始まってからは情報科教員として「情報A」「情報B」「情報C」や「社会と情報」「情報の科学」の科目や、工業高校の教員として「プログラミング」「ネットワーク」「データベース」など専門教科の教育に携わってきました。これらの経験から「GIGA スクール構想」で活用する情報端末について、現場の教員の視点から考察をしたいと思います。

GIGA スクール構想とは

令和元年(2019年)12月13日に閣議決定された令和元年度補正予算案において、国の予算に児童生徒向けの1人1
台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するための経費が盛り込まれました。12月19日、 萩生田光一文部科学大臣は「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~≪文部科学大臣メッセージ≫」を発表し、文部科学省は12月19日「GIGA スクール実現推進本部」を設置し、推進することとしました。

文部科学省「GIGAスクール構想について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_0001111.htm

萩生田光一文部科学大臣「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~≪文部科学大臣メッセージ≫」
https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf

文部科学省「GIGA スクール実現推進本部の設置について」
https://www.mext.go.jp/content/20191219-mxt_syoto01_000003363_08.pdf

文部科学省は「1人1台端末は令和の学びの 『スタンダード』」であるとし「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、 子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質 ・ 能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現へ」をスローガンに掲げています。「GIGA」は「ギガバイト」のような数字を表す言葉ではなく「Global and Innovation Gateway for All」からとられています。「Global」や「Innovation」には様々な意味がありますが、私は「すべての人にとっての普遍的で創造的な扉」と理解しています。

文部科学省リーフレット「GIGAスクール構想の実現へ」
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf

「GIGA スクール構想」の背景には、平成29年(2017年)3月に改訂された「学習指導要領があります。この学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)」の導入やプログラミング教育の充実が図られることになっており、小学校では令和2年度(2020年度)から、中学校では令和3年度(2021年度)から完全実施されます。高等学校では令和4年度(2022年度)の新入生から学年進行で実施されます。

文部科学省「平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

つまり、学校教育の在り方を単に技術の進歩に対応させるというのではなく、新しい時代に必要となる資質・能力をどう育成するかを実現するためにネットワークや情報機器を活用することが目的となっています。

GIGA スクール構想で何を実現するか

文部科学省のリーフレットには、GIGA スクール構想は次のことを実現すると書かれています。

  • 1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育環境を実現する。
  • これまでの我が国の教育実践と最先端のベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す。

またより具体的な「ICT の活用により充実する学習の例」として次の4点が示されています。

  • 調べ学習:課題や目的に応じて、インターネット等を用い、様々な情報を主体的に収集・整理・分析
  • 表現・制作:推敲しながらの長文の作成や、写真・音声・動画等を用いた多様な資料・作品の制作
  • 遠隔教育:大学・海外・専門家との連携、過疎地・離島の子供たちが多様な考えに触れる機会、入院中の子供と教室をつないだ学び
  • 情報モラル教育:実際に情報・情報技術を活用する場面(収集・発信など)が増えることにより、情報モラルを意識する機会の増加

これらの学習の例は学習活動から考えると、大きく2つの場面に分けられます。ひとつは「調べ学習」や「遠隔教育」に代表される「情報収集」や「コミュニケーション」の場面です。もうひとつは「表現・制作」という創造力を発揮する場面です。「情報モラル教育」はこの両方にかかわると考えられます。

「調べ学習」と「表現・制作」の違い

「調べ学習」では主にインターネットの検索を利用することになるでしょう。あるいは「電子教科書」を効果的に使うことも求められます。調べたことをまとめるツールも必要でしょう。集めたデータを整理し、分析することも重要です。

これらの学習活動について、現代ではおおむね Web ブラウザを使うことで実現できそうです。Web ブラウザは本来インターネットの Web ページを見るものですが、今では様々なアプリケーションの実行プラットフォームであると言えるまでに発展してきました。簡単な文書作成や表計算、プレゼンテーションのスライドを作ることなどは、様々な Web サービスで提供されています。プログラミングを体験できるサービスや、デスクトップミュージックを作るサービスもあります。PDFを表示することもできます。このことから「調べ学習」では、Web ブラウザが安定して動作することが最も重要なことだと考えられます。その他には、写真を撮る、動画を録画するといった操作がしやすいことでしょうか。カメラの解像度などは、現行機種ではどれでも十分な水準を持っていそうです。

では「表現・制作」の場面ではどうでしょう。たとえば小説を書くように、単に文章さえ綴ればよいなら簡単です。しかし論文を書く場合に、写真や図、データをわかりやすく表現したグラフを用いるなどしようと思えば、一定の表現力を持ったアプリケーションが必要です。データを視覚化して見やすいグラフに表現する、プレゼンテーションのためのスライドを作る、ポスターセッションのためのポスターを作る、撮った写真をトリミングしコントラストや色合いを変えるなどして訴求力の高い画像に仕上げる、発表を記録して編集し動画コンテンツにする。「表現・制作」のためには、「パソコン」か「タブレット」かという区別以上に、充実した機能を持つアプリケーションを使える機器であることが必要です。

写真についても、単に記録としての画像ではなく、表現としての画像を撮るには、パソコンやタブレットの内臓カメラでは不十分であり、一眼レフを使うことになります。焦点距離の異なるレンズを使いこなし、絞りとシャッタースピードの組み合わせを変えて被写界深度を考慮した写真を撮る、などをするには、パソコンやタブレットに装備されたカメラでは不十分です。その場合は、一眼レフで撮ったデータを簡単に取り込むことができる必要があるでしょう。

キーボードやマウスなど入力デバイスの品質も重要です。誤りなく軽快に入力できるキーボードは思考の途切れを心配する必要がありません。この点では「ノート型のパソコン」に優位性があるでしょう。「タブレット」では別途キーボードを用意する必要があり、多くの場合それらは堅牢さや打鍵の快適さに重点を置いていません。作業開始の流れでも、ディスプレイを開けばすぐキーボードを使える「ノート型パソコン」にはかなわないでしょう。

学校と家庭で毎日持ち運ぶ、という観点からは、軽量であること、充電の持ちが良いこと、堅牢であること、などが求められると思います。このとき、ACアダプタなど必要な装備品の重さも忘れないようにしたいところです。

高等学校での活用場面の特徴

小学校では「調べ学習」の活用シーンが多いと思います。校舎外での活動、野外活動で機動的に使うには「タブレット」型が使いやすいかもしれません。写真も「記録としての画像」でよければ、機器組み込みのカメラでよいでしょう。中学校の学習は「調べ学習」から「表現・制作」の活動に切り替わっていくでしょう。調べたことをまとめる、分析する、他に伝えるための表現力を養う、といったことが課題になります。さらに高等学校では、レポートを書く、論文をまとめる、プレゼンテーションを作るといった、品質の高い創作物を作ることが求められます。さらに美術の専門分野「ビジュアルデザイン」や教科「情報」の専門分野「課題研究」「情報の表現と管理」「情報デザイン」「コンテンツの制作と発信」「メディアとサービス」「情報実習」では、高度なマルチメディアコンテンツのデザインを制作できる環境が求められます。

高等学校では進路に対応した各種検定試験の取得をめざす教育も行われます。例えば日本情報処理協会が主催する「日本語ワープロ検定試験」では、文字の処理、グラフの挿入、表内データの処理(計算、並べ替え)、図形挿入、段組みなどが実技試験の出題範囲になっています。正しい形式のビジネス文書を作成するためには、一定の水準を持ったワードプロセッサや表計算ソフトウエアなどアプリケーションを使うことができなければいけません。

高等学校の教科「情報」は、令和4年度入学生の新課程から必履修科目が「情報Ⅰ」に一元化され、その内容に「コンピュータとプログラミング」として「コンピュータで情報が処理される仕組みに着目し,プログラミングやシミュレーションによって問題を発見・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。」とプログラミング実習を行うことが示されています。また新学習指導要領は令和2年度から小学校で、令和3年度から中学校で実施されており、プログラミング教育が始まっており、児童生徒は「順次構造」「繰り返し構造」「条件分岐」などいわゆる「構造化定理」の基本を身につけて高等学校に進学してきます。高等学校では「オブジェクト指向」など高度なプログラミング実習に取り組む必要があり、プログラミングができる環境を整えなければいけません。

「GIGA スクール構想」で活用する機種の例

これらのことから「GIGA スクール構想」で活用することを想定し、一般的に使われている市販のパソコンやタブレットの中から次の3機種を購入し、比較してみました。

東芝 Dynabook K50

OSはWindows 10、キーボードを取り外すとタブレットの形で使える、いわゆる「2in1」のデタッチャブルPC。

アップル iPad 8th Generation 32 GB

OS は iPadOS 14、典型的なタブレット型デバイス。キーボードはオプションで、アップル純正の Apple Smart Keyboard を使いました。

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3

OS は Chrome OS、「教育向けノート PC」のコンセプトで開発されたノート型パソコン。

「GIGA スクール構想」で活用するための3機種のハードウエア比較

東芝 Dynabook K50、アップル iPad 8th Generation 32 GB、ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3の3機種についてハードウエアの比較をしてみました。「実測値」とあるのは簡易な量りで重さを量った値で、それ以外はメーカー発表の公称値です。

  • 東芝 Dynabook K50
    • OS:Windows 10
    • RAM:8GB LPDDR
    • ストレージ:128GB フラッシュメモリ
    • インタフェース:USB コネクタ(2)、USB Type-C コネクタ、3.5mm マイク・ヘッドフォンジャック、microSD カードスロット
    • サイズ:240.0(幅)×178.0(奥行)×9.7(高さ)mm(キーボードドック接続時)
    • 重さ(カタログ値):1,180g(キーボードドック接続時)
    • 重さ(実測値):603g(タブレット状態)、1,177g(キーボードドック接続時)、1,355g(ACアダプタを含む重さ)
  • アップル iPad 8th Generation 32 GB
    • OS:iOS
    • RAM:不明(非公表)
    • ストレージ:32GB
    • インタフェース:Lightning コネクタ、3.5mm ヘッドフォンジャック
    • サイズ:250.6(高さ)×174.1(幅)×7.5(厚さ) mm
    • 重さ(カタログ値):490g(本体のみ)
    • 重さ(実測値):487g(本体のみ)、731g(専用キーボードカバー付き)、808g(専用キーボードとACアダプタを含む重さ)
  • ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3
    • OS:Chrome OS
    • RAM:4GB LPDDR
    • ストレージ:32GB eMMC
    • インタフェース:USB コネクタ(2)、USB Type-C コネクタ(2)、3.5mm マイク・ヘッドフォンジャック、microSD カードスロット
    • サイズ:295×205.3×20.9(最薄部、突起部含まず)mm
    • 重さ(カタログ値):約1,450g(最軽量装備時)
    • 重さ(実測値):1,374g(キーボード一体型本体)、1,673g(AC アダプタを含む重さ)

東芝 Dynabook K50 はキーボードドック接続時の本体重量は実測値で1,177gでしたが、キーボードドックから本体を切り離してタブレット状態で使うことができます。このときの重量は実測値で603gになりました。体感的にはかなり軽く感じます。堅牢なキーボードを使ったコンテンツ作りの作業と、タブレット状態で軽やかに使うシーンの使い分けができそうです。

東芝 Dynabook K50をキーボードドックから外した状態

アップル iPad 用の専用キーボードはカバー付きでスタイリッシュです。とても薄く、キーボードを内側に畳んでカバーになるように設計されており、持ち運びに便利なようにデザインされています。

アップル iPad 用の専用キーボード

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 はキーボードと本体が一体型で分離できませんが、キーボードを360度反対側に回してタブレット的に使うことができるように設計されています。キーボードを後ろに回したときはキーボードは使う必要がないので入力できないようになります。ただ本体が実測値で1,374gあり、キーボードと画面の間に隙間も多く、タブレットとして使うには少々無理があるように感じます。

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 のキーボードを裏側に回した状態

インタフェースの比較

東芝 Dynabook K50 には最も普及している USB Type-A コネクタが2つあります。USB は最初の規格である USB 1.0 が1996年に登場し、現在に至るまで拡張されながら長く利用されている周辺機器のインタフェース規格であり、市場で普及している Windows に対応したデバイスが豊富に手に入ります。USB メモリでファイルを交換する、ハードディスクをつないでデータを保存する、CD ドライブや DVD ドライブをつないで CD や DVD を再生し CD-R や DVD-R メディアにデータを記録する、外付けの10キーを使う、有線のマウスを使う、ネットワークアダプタをつないで有線 LAN に接続する、ビデオアダプタを使ってデュアルディスプレイにする、などの機能拡張がしやすくなっています。また外観からはわかりにくいですが、タブレットの下側面、ちょうどキーボードドックにあたる面に microSD カードのスロットがあります。ただこのスロットは針のようなピンを差し込んで抜き差しする形で、頻繁に抜き差しするようにはデザインされていません。基本的には取り付けたまま運用し、内部の拡張ストレージとして利用する形でしょう。ピンを使わないと開けられないので、誤ってカードが抜け落ちる心配はありません。USB Type-C を使用してパソコン本体に充電するには、本体が USB Power Delivery(USB PD)規格に対応している必要がありますが、この機種は対応していないようで USB Type-C では充電できませんでした。

東芝 Dynabook K50 を正面から見た右側面のインタフェース
東芝 Dynabook K50 を正面から見た左側面のインタフェース
東芝 Dynabook K50 のタブレット下側面にある microSD スロットを引き出したところ

アップル iPad 8th Generation 32 GB のインタフェースは、アップル固有の Lightning コネクタが1つあるだけです。Lightning コネクタの周辺機器は限られているので、USB の変換ケーブルを使って USB デバイスを使うことが選択肢が広がり便利だと思われます。iPad や iPhone には「AirDrop」という機能で、近距離のデバイスと無線でファイルを送受信することができます。Windows 10 にも「近距離共有」という同様の機能がありますが、現時点では iPad や iPhone はアップル製品同士、Windows 10 は Windows 10 同士でしかファイル送受信ができません。 アップル iPad でデジタルカメラで撮影したデータを SD カードで取り込んだり、USB メモリを使ってデータ交換をするにはアダプタを介して行えますが、外付けハードディスクの利用には制限があります。仕様としてはハードディスクが使えることになっていますが、ディスクフォーマットが NTFS には非対応であったり、ハードディスクに必要な給電力が足りない場合に別途外部電源を必要とするなど実際には制約が多いようです。CD ドライブや DVD ドライブも「iPad 対応」と明記されないものは使えないと思った方が良いでしょう。

アップル iPad 8th Generation 32 GB の下部にある Lightning コネクタ
アップル iPad 8th Generation 32 GB の上部にある3.5mm ヘッドフォンジャック

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 には豊富なインタフェースが揃っています。USB Type-A コネクタが2つ、USB Type-C コネクタが2つ、本体側面にあり抜き差ししやすい microSD カードスロットが1つです。ディジタルカメラで撮影した画像を SD カードを使って取り込むことができれば便利ですが、多くのディジタル一眼レフカメラには通常サイズの SD カードが使われているので、このスロットには入りません。microSD カードスロットでデータをやり取りするには、ディジタルカメラで使うメモリを microSD カードにし、SD カードアダプタに装てんして使うとよいでしょう。USB コネクタにいくつかの USB デバイスをつないでみると、キーボードやマウス、メモリカードアダプタ、ハードディスクなど一般的な拡張デバイスは使えましたが、CD/DVD ドライブは手持ちのものを3台試しましたがいずれも使えませんでした。最も不便だと思われるのは、多くのプリンタが対応していないところです。ペーパーレス時代と言われるように、多くのドキュメントがデバイス画面で利用される時代ではあり、教科書もディジタル化されようとしていますが、作ったものを手軽に印刷できないことは不自由です。授業においてもそうですし、オンラインを活用した学習場面が求められる今日、たとえば電子メールやグループウエアで家庭学習のプリント教材を配布するようなシーンでは、家庭で簡単にプリントできる環境が必要です。また校外学習や修学旅行先でチラシや簡単なドキュメントを作って配布や掲示をしたい場合でもプリンタが使えないと困ります。 USB Type-C については、この機種は本体が USB Power Delivery(USB PD)規格に対応しているので USB Type-C で充電するようになっています。充電については汎用性があり優れています。専用の充電器以外を使って USB Type-C で充電する場合は、充電器の給電量が本体が必要とする給電量を満たしていることを確かめて使いましょう。

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 の本体左側面のインタフェース
ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 の本体右側面のインタフェース

キーボードの比較

ハードウエアの比較で気がついたことに、キーボードの違いがあります。現在のオフィスコンピュータで使われるキーボードのキー配列には米国で主流の101キーボードや、英字は QWERTY 配列でカナは JIS 配列、101キーボードに日本語変換用の5キーを追加した106キーボード、日本の PC の標準規格を定めた OADG(PCオープン・アーキテクチャー推進協議会)が定め Windows キーなどを追加した OADG 109キーボードなどがあります。

東芝ダイナブック K50 のキーボードは、OADG 109キーボードに準拠しています。ファンクションキーが F1 から F12 まであって刻印されており、直感的に使いたい ESC キーや Tab キー、Ctrl キー、ALT キーなどが OADG 109キーボードと同じように使えます。Delete キーも独立しています。トラックパッドも使えます。

東芝ダイナブック K50 のキーボード

iPad のカバー付き純正キーボードは独特で、キーが66個しかありません。必要最小限に抑えたデザインです。キー入力に熟練すると頻繁に使用する ctrl キーや caps キーの位置が違います。またファンクションキーがありません。ファンクションキーは文字入力の際に、入力した文字をカタカナやひらがな、半角などに変えるため便利なキーですので、なければ不便です。またトラックパッドもありません。しかし純正品以外の他社製品を探せば理想的なキーボードが選べるのかもしれません。

iPad のカバー付き純正キーボード

Chromebook のキーボードは、キーが78個です。Chromebook には「CAPS ロック」キーがありませんが、Alt キーと検索キーを同時に押すという裏技的な方法で CAPS をロックできます。また F1 から F12 のファンクションキーも見当たりませんが、最上段の10個のキーは検索キーと同時に押すとファンクションキーとして機能し、上から2段目の12個のキーも検索キーとの同時押しでファンクションキーとして機能するようです。しかしキーにそのような印字がないので直感的に使うには難しそうです。また F7 キーと F8 キーの文字変換の具合が Windows と違います。DEL キーがないのも不便です。これも虫眼鏡アイコンのキーと同時に押せばバックスペースキーが DEL キーと同じ働きをするのですが、直観的には使えません。なおこのキー配列は、acer 製の別の Chromebook、C732 も同じでしたので、Chromebook の標準仕様キーボードだと思われます。また「ローマ字入力モード」と「かな入力モード」の切り替えは、「設定」ページを開いて「言語と入力方法」から入力方法のオプションを変更するなどの操作が必要で、かなり深い階層にあるので手間がかかります。ちなみに虫眼鏡アイコンの検索キーの正式名称は Everything Button と呼ぶそうです。トラックパッドも使えます。

ヒューレットパッカード Chromebook X360 11 G3 のキーボード

生徒は BYOD 端末だけを使うのではなく、コンピュータ教室のコンピュータなども使うはずですから、できればキー配列も標準仕様に近いことが望ましいと思われます。

打鍵の感触は人によって好みが違うと思われますが、Chromebook のキーボードは堅牢さがあると感じ、私にとっては軽快に入力できる好ましいものでした。

重さの比較

学校と家庭を持ち運ぶことになると考えられるので、重さは重要な検討要素です。いずれの機種も、重量の実測値はメーカー公称のカタログ値よりやや軽く測定できました。使った量りが簡易なものだったので測定誤差もあると思います。本体のみの重量では、キーボードを持たないタブレット型のiPadが最も軽く、本体のみでは487gでした。小学校で好まれる理由のひとつに、この軽さがあるのでしょう。次に軽いのは、キーボードを外してタブレット状態にした東芝ダイナブックの K50 で603gでした。ダイナブック K50 はキーボードと一体にした状態でも1,177gで、実際に持った実感でも軽いと感じます。タブレット状態で持ち運んでも、キーボードドックを付けて持ち運んでもいい自由度があります。ヒューレットパッカードの Chromebook はキーボードを外すことができず、3機種の中では1,374gと最も重く、AC アダプタの重量が300gほどあり、AC アダプタも一緒に持ち運ぼうとすると1,673gになりました。AC アダプタは常に持ち運ぶ必要がないとも思えますが、やはり充電の必要がある場合もあるので重量は気になるところです。

「GIGA スクール構想」で活用するための3機種のベンチマークと性能比較

次に、実際に使ってみた性能比較とベンチマークなどの数値をまとめます。起動スピードと PDF ファイルを開く早さは実際に何回か試してストップウォッチで測った平均値、Web 会議時のリソース状況は Windows では「タスクマネージャ」、iPad ではフリーソフトの「システムステータスライト」、Chromebook では「sys-internals」などを使って調べました。

起動スピード

東芝 Dynabook K50アップル iPadChromebook X360
起動スピード電源投入から起動
スリープから復旧
画面オフからの復旧
休止から復旧
22.84秒
3.59秒
1.23秒
22.03秒
17.42秒
0.68秒
(なし)
(なし)
11.45秒
0.89秒
(なし)
(なし)

Windows は起動が遅いと思い込んでいる人がいますが、それは従来の PC が OS の起動をハードディスクから行っていることが主な理由です。3機種を実際に動かしたところ、上記の表の結果になり、確かに Windows OS である東芝 Dynabook K50 はアップル iPadや Chromebook X360 に比べて電源投入時からの起動時間もスリープ状態からの復旧も長い時間が必要でしたが、その差は電源投入時からの起動時間は iPad に比べて5秒程度、Chromebook に比べて11秒程度しかなく、スリープ状態からの起動では iPad とも Chromebook とも3秒未満しか違いません。また Windows にはいくつかの電源オプションがあり、画面オフからの復旧では1.23秒で復旧しました。数値にはいろいろな表現方法があり、違いを強調したいなら例えば「スリープ状態からの復旧は iPad は Windows より6倍速い」と言うこともできますが、その差が3秒だとすると体感的には支障がない違いだということができるでしょう。

Web 会議のリソース使用状況

東芝 Dynabook K50 アップル iPad Chromebook X360
Teams 会議時のリソース使用状況Web アプリ起動前はメモリの使用量は2.7GB(33%)で CPU の使用率はわずか。会議を始めるとメモリの使用量は3.6GB(45%)と上昇し、CPU の使用率は間欠的に上昇する。動画共有を受けると CPU 使用率が一時的に100%になることがある。Web アプリ起動前はメモリの使用量は 75%ほど、CPU の使用率は低い。会議を始めてもメモリの使用量は75%で変わらず。動画共有を受けるとメモリの使用量は90%を超えたが、CPU の使用率は低いまま。Web アプリ起動前はメモリの使用量は4GB中1.7GB(43%)ほど、CPU はほとんど使用していない状態。会議を始めるとメモリ使用量が2GB程度になり、CPU の使用率は20%~60%を乱高下する。動画共有を受けてもメモリ使用量と CPU 使用率に特に変動はない。
Zoom 会議時のリソース使用状況会議を始めるとメモリの使用量は3.3GB(41%)となり、CPU の使用率は一瞬100%に近くなり数十秒後に下がった。動画共有を受けるとメモリの使用量は3.5GB(44%)、CPU の使用率は100%近くになる。会議を始めるとメモリの使用率は80%ほどとなり、CPU の使用率は低いまま。動画共有を受けるとメモリの使用量は90%を超えたが、CPU の使用率は低いまま。会議を始めるとメモリの使用量は4GB中2.5GB(63%)以下で上下するようになり、CPU の使用率はわずかに上昇するが低いまま。動画共有を受けるとメモリの使用量は2.5GB(63%)を超え、CPU の使用率は30%に上昇した。

オンライン授業や、ネットワークを使った協働授業、コミュニケーションの機会が多くなると考えられます。近年よく使われるオンラインコミュニケーションツールに Microsoft Teams と Zoom があります。その両者を各デバイスで試してみました。メモリや CPU の使用状況はデバイスによってかなり違いがありました。傾向としては、Windows OS ではメモリの使用量も CPU の使用率も大きく、iPad は常にメモリの使用量が大きいが CPU の使用率は低い、Chromebook はメモリの使用量も CPU の使用率も低いと言えそうです。Chromebook は Web ブラウザにチューニングされていると言えるのかもしれません。しかしいずれのデバイスでも、Teams も Zoom も快適に会議ができ支障はありませんでした。このようなオンライン会議ではデバイスの性能よりもネットワークの帯域をいかに確保するかが重要で、ネットワークの回線速度がボトルネックになるように思います。

ブラウザの快適さ

東芝 Dynabook K50アップル iPadChromebook X360
ブラウザの快適さSpeedmeter
JetsStream2
Basemark
MotionMark
44.20
54.00
317.80
118.84
131.30
127.02
589.83
802.95
54.80
58.48
366.65
190.10

ブラウザの快適さを示すベンチマークを試しました。いずれの値も3回の平均値です。これらの数値からは、Web ブラウザの快適さではアップル iPad 性能が特に高い数値になりました。Web を使った調べ学習ではアップル iPad が適していると思えます。しかし前述したように高等学校での調べ学習は単に調べて終わりではなく、レポートや論文、プレゼンテーションにまとめる学習が必要になります。このとき iPad ではマルチウィンドウが簡易な形でしか使えないため、Web や PDF ファイルを開きながら作業をする、といったことが自由にはできません。

PDF ファイルを開く快適さ

東芝 Dynabook K50アップル iPadChromebook X360
PDF ファイルを開く速さWeb に置かれたページ
ローカルのファイル
Web でページ送り
ローカルでページ送り
48.15 秒
3.89 秒
6.22 秒
4.56 秒
69.24 秒
0.66 秒
6.12 秒
0.86 秒
35.54 秒
1.76 秒
4.02 秒
4.26 秒

今後は教科書も電子教科書になる可能性があります。またペーパーレスの理念から、ドキュメントを PDF にして利用することも多いと考えられます。そこで PDF ファイルを使う快適さを調べてみました。使ったドキュメントは内閣府の防災情報のページにある「防災に関してとった措置の概況・平成25年度の防災に関する計画」という資料です。この資料を選んだ理由は、ある程度のページ数があり、一定程度の図表が含まれていることです。それ以外の理由は特にありません。

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/pdf/H25_honbun_1-4bu.pdf

この PDF ファイルは275ページありますが、まず Web サービスからブラウザで開き、最初のページが表示されるまでをストップウォッチで測りました。3回の平均値で、35.54秒から69.24秒の幅がありますが、ばらつきも大きく、デバイスやブラウザの性能というよりネットワークの帯域の状態が大きく影響しているように感じました。というのも、ファイルをダウンロードしてローカルで開いたときは、0.66秒から3.89秒とずいぶん早く表示されるようになったからです。また最初のページを開いた後、ページ送りで50ページを開く操作をして時間を測りました。Web のままページ送りをしたときは、3回の平均で4.02秒から6.22秒の違い、ファイルをローカルに置いての操作では0.86秒から4.56秒の差がありました。PDF ファイルをローカルに置いた場合に、iPad がたいへん速く開くことができ快適であることがわかりました。

アプリケーションについて

コンピュータやタブレットなどのデバイスはアプリケーションソフトウエアを使うためにあります。近年は多くのアプリケーションが Web で提供されるため、Web ブラウザを快適に使えることは重要です。しかし前述したように、高等学校の学習シーンでは品質の高いレポートやポスターなどのデザイン物、発表のためのプレゼンテーションスライドを作る必要があります。Word、Excel、PowerPointなど良く使われる Office アプリケーションのインストール版は Windows 用しかありません。ブラウザで使う Office365、今後は Microsoft365 と呼ばれるサービスでも Word や Excel、PowerPoint が使えますが、機能には違いがあります。

高等学校の教科「情報」は、これまでは「情報A」「情報B」「情報C」や「社会と情報」「情報の科学」のように選択必修だった科目構成が、新しい学習指導要領で「情報Ⅰ」に集約され、プログラミングも位置付けられました。プログラミング教育には様々な手法がありますが、Excel のマクロを使った実習は多く取り入れられています。しかし Office365 の Excel ではマクロが使えません。Excel のマクロを使った実習が良いか悪いかは授業者の考え次第ですが、結果が表のデータで見えてわかりやすいこと、実習環境を整える手間が少ないことなどのメリットは大きいと思います。また本格的なプログラミングでは Microsoft Visual Studio を使った実習も考えられますが、これも Windows OS でしか利用できません。

あまり意識されないことかもしれませんが、Windows OS 用には優れた無料のソフトウエアが豊富に Web で提供されています。画像編集や動画編集、サウンド編集、作曲などマルチメディア実習に必要なソフトウエアを利用でき、しかも重要なことは、それらが一定の品質で保たれ、均一な環境を整えることができるところです。私は授業でディジタルデータの学習をするときに、メモ帳でテキストファイルを作って保存し、それをバイナリのまま開くことができるフリーソフトを使って文字がコードで保存されていることなどを実習しますが、このときに使うバイナリエディタなどは他の OS 用には見当たりません。

フォントの違いにも気を付けたいところです。フォントは文字のデザインセットなので、日本語のような多くの漢字を必要とする言語のフォントを作るには膨大な時間と手間がかかります。美しいフォントはそれだけで芸術と言っていいでしょう。デザイン性のあるコンテンツを作ったときに、フォントの違いでデザインが変わることは避けたいところです。学校のコンピュータ教室で作ったマルチメディアの作品を BYOD 端末で編集したときに、デザインが変わってしまうと困ります。教科「情報」でも新学習指導要領の専門科目に「情報の表現と管理」があり、その内容に「様々な条件,目的によって用いられる文字,音・音楽,静止画,動画などのメディアの特性や役割を取り上げ,情報の構造や順序を整理すること,図解して表現すること,コンピュータやソフトウェアを活用した音や静止画及び動画のデジタル化と編集,目的に応じた書体の選択などの情報を表現するための知識と技術を扱う。」と示されています。また「コンテンツの制作と発信」というマルチメディアコンテンツを作成することを目的とした科目も設定されています。

ネットワーク環境にない場面でも使えるか

文部科学省の GIGA スクール構想により、今後は学校のネットワーク環境も整備されるでしょう。また家庭でも Wi-Fi ブロードバンドルータを置くことが増えていると思います。しかし学習の場面は学校と家庭だけではありません。学校教育活動の中でも、場合によっては中庭やグラウンドでタブレットを使う場面もあるでしょう。京都の寺社をグループで散策する校外学習や修学旅行先などでネットワーク環境にない場面でも使えるためには、アプリケーションを Web サービスに依存せずに使えるものが望ましいと思います。

高校生の学習シーンをイメージし、実際に機器を試して機種を選択する

高校生の学習シーンでは、小学校や中学校と異なるものが求められます。ブラウザが快適に動く、いくつかの基本アプリが使える、といっただけでなく、教科「情報」やその他の教科でどのように使うかをイメージして機種を選択したいものです。また私はこのたび3つの機種を試しましたが、機種選定においては実際に機器を使ってみて、何ができるか、何ができないか、できる場合でも、それが実際的であるかどうか、などを体験しておく必要があると思います。また高校を卒業して大学へ進学したり就職することになっても、しばらくは使い続けられる機器が望ましいとも考えます。

失敗の轍を踏まないようにしたい

高校に教育用コンピュータが導入され始めた1998年頃、私の周りでコンピュータの活用に意欲的だった各校の教員たちが集まって自主的に研修を始めていました。私もその中に加わり、マシンや OS、アプリケーションの活用を試していましたが、当時の流行に FreeBSD や Linux など UNIX を使おうという動きがありました。そこではリーナス・トーバルズがヒーローであり、リチャード・ストールマンの GNU 宣言に私も感銘を受けました。これら UNIX 系の OS は無料である、というメリットから、様々なディストリビューションの UNIX を試しましたが、気が付けば大量の書籍と雑誌にお金を使い、膨大な時間を費やして、しかもまともに動かすことができないという現実に気付くことになりました。OS のテストで過労のため健康を害する同僚までいました。多少価格が安いとか、〇〇をするならこれで十分だ、といった目先のことだけを考えて機器を選択すると、結果的にサポートやメンテナンスに時間がかかり、他の機器を併用せざるを得なくなるなどの問題がおこるでしょう。このたびの BYOD 端末の導入は、生徒保護者が購入して使う物ですから、品質と性能の良いしっかりした機種を選びたいものだと思います。

2021年4月6日(5月9日加筆)

松本 吉生(まつもとよしお)

京都に生まれ、神戸で幼少期を過ごす。大学で応用化学を学んだのち、理科教諭として高等学校に勤務する。教育の情報化が進む中で校内ネットワークの構築運用に従事し、1998年度から2000年度にかけて兵庫県立明石高等学校で文部科学省の「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業」に携わる。兵庫県立西宮香風高等学校では多部制単位制の複雑な教育システムを管理する学籍管理データベースシステムをSQL ServerとInfoPath、AccessなどのOfficeソフトウエアによるOBA開発で構築・運用する。2013年度に「兵庫県優秀教職員表彰」を受賞。2015年から2017年まで兵庫県立神戸工業高等学校でC#プログラミング、IoTなどのコンピュータ教育を行い、現在は兵庫県立神戸甲北高等学校に勤務する。2004年からマイクロソフトMVP(Microsoft Most Valuable Professional)を受賞し、現在17回目の連続受賞。2016年にマイクロソフト認定教育者(Microsoft Innovative Educator Experts : MIEE)を受賞し、現在4回目の連続受賞。2020年1月14日に「令和元年度文部科学大臣優秀教職員表彰」を受賞。

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